大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)4900号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、損害について。

被告会社が弁済した原告隆夫の治療費金三四二、〇八二円のほか原告らに別表損害明細のうち、1の得べかりし利益の損失の金額(税金、保険料は得べかりし利益の損害算出に当つて控除すべきでない)2の慰藉料については金五〇〇、〇〇〇円の限度で、3の慰藉料については金一五〇、〇〇〇円の限度で損害発生を認める。

損害算定につき、特記すべき認定事実は左のとおりである。

(1) 受傷の程度

原告主張のとおり(第三の一の(二)の1)<編註>頭部挫傷、頭蓋底骨折、顔面挫傷、左耳鼓膜破裂、左耳介挫創、左顔面神経麻痺、左肩部挫傷、左前胸部挫傷、左第九、一〇肋骨亀裂骨折、左胸背挫傷、腰部挫傷。

(2) 治療の程度

事故時<編註、昭和三八年五月一九日>より同年八月三〇日まで手島病院に入院、さらに同年九月一一日まで大阪赤十字病院に入院、さらに同年二月一〇日頃まで右病院に通院治療を続けた。

なお、事故時の脳内出血などの衝撃により当日の記憶を喪失しており、意識を回復したのも入院後三日目になつてからであつた。

(3) 現在においてもいく分記憶力の減退があり、疲労し易く気候の変り目に頭痛に襲われ、事故以前は人に劣らぬ健康体であつたのに、体力が従前通り回復していない。

(4) 事故後、原告隆夫はその勤務先である和光電気株式会社の代表者の介入による示談の交渉が被告会社側の不誠意(治療費以外、慰藉料五万円、休業補償七万二千円の額しか提示しておらず受傷の程度に比して極めて少額なので、かく解せざるを得ない)によつてこじれたため、居ずらくなり、三八年一一月末退社せざるを得なくなつた。

(5) 原告玲子は三七年三月一五日原告隆夫と結婚、幸福な家庭に恵まれ、当時妊娠九ケ月の身重であつたところ原告の事故により大きな衝撃を受け、元来母体に異常もなかつたのに、そのショツクのため母乳が出ず、初産の育児にも障りを生じ、夫婦ともども生活を脅かしかねない受傷に家庭生活上大きな打撃を受けた。

(資料<省略>)

(イ) なお被告らは原告隆夫の休業は九月以降については恣意によるものであると主張するけれども、本件受傷部位にかんがみると、後遺症等が必ずしも負傷直後の治療時に明確とならない脳外科等に関するととなどから、首肯できる範囲内の休業治療と認められる。

(ロ) なおまた被告らは負傷の場合には、近親者の慰藉料請求権がないと主張する。

しかしながら、民法第七一一条の規定の趣旨が生命侵害を除く場合の近親者の慰藉料請求権の排除まで目し、または前提としたものではない。

そもそも社会生活上の最も基本的な単位である、夫婦親子のような一身同体ともいうべき密接な家族共同生活体(現代の小家族乃至該家族)の一員はその構成員の身体等の障害によつて、直接生活上の打撃乃至脅威を受けるのが、現代生活機構の倫理上経済上その他にわたる性質上必須の埋であるから、近親者の身体侵害についても慰藉料請求権を認めるのが当然である。

別表その一

損 害 明 細

損害の種類内容

金額

1.隆夫の得べかりし利益

178日(38.5.17〜38.11.10)

平均1月42,520円

2.隆夫の慰藉料

248,030

800,000

原告主張の隆夫の損害合計

裁判所認定額

1,048,030

748,030

3.玲子の慰藉料

裁判所認定額

500,000

150,000

以上

特に本件のように、初産児の分娩、育児という夫婦にとつて、とりわけ妻にとつて生涯最大の試錬の、またいたずきの時に当つて夫を不時の重傷におちいらしめた事は妻にも深刻な苦痛、打撃を与えたものというべく、慰藉の責任を生ずべきこと、いうまでもない。 (舟木信光)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!